非常口席から始まる飛行機恋愛ミニドラマ「Perfect」

飛行機の非常口席に乗ったことにより、そのメリット(デメリット?)として、CAさんと出会う飛行機恋愛物語を、物書きの知人から頂きました。詳しくは言えませんが、著名人のゴーストライターとして文章を執筆したり、過去には賞を穫ったこともある人です。

軽めの文章なのですらすらと読めます。現実にありそうな光景が目に浮かぶこと間違い無しです。ミニドラマっぽいです。

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ドラマは、いつだって日常から始まる。

もう、それほど多くの奇跡を望めなくなった、私の人生においては。

ある程度の歳になって、仕事だ家庭だと、人生が固定化されてしまい、忙しく日常生活の潮流に流されるだけの毎日を送っていると、感情が揺さぶられるような出会いや別れがあることを、ついつい忘れがちになる。

そんな時に突然、毎日通い慣れていた道に落とし穴が空いていて、そこに落ち込んでしまったかのように、ドラマチックな出来事に巻き込まれてしまうことがある。

それは、そう頻繁に起こることではないし、ごくごく稀な出来事ではあるのだが、確かにそういう事があるのだと、48時間で2回目の再会を果たした彼女の姿を、中華料理屋のテーブル越しにまっすぐに見つめながら、私は実感していた。

出会った時には纏めていた髪をおろした彼女の姿は、見つめるだけで緊張するほどの美貌を、より艶やかに見せていた。

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始まりは、飛行機のいつもの席だった。

私は、飛行機に乗る時は、出来る限り非常口の横の席を指定することにしている。

この席は、前に座席が無いので足元が広く、伸び伸びと過ごすことができるからだ。

一つ難点を上げれば、緊急時に脱出の手伝いを行うための説明を、事前にCAさんから受けなくてはならないことだろうか。

まあ、それも一枚のボードを手渡されて読む程度の、ほんの一瞬のことなので、難点と呼ぶほどのことでもないのかもしれない。

ある冬の日の夜、出張帰りの新千歳空港から羽田空港への最終便で、私は非常扉の横の席に狙い通り着席することができて、ベルトも腰の低い位置で締め、あとは離陸を待つばかりだった。

そうそう、もう一つだけこの座席に難点があることを忘れていた。

この座席は、真っ正面に乗務員用の収納式の椅子があり、離着陸時にはCAさんと向かい合わせで座ることになる。

微笑をたたえた美人と、まっすぐに向き合って、しばらくじっと座っていなければならないのだ。

一部の人々にとっては、これは難点ではなくて利点なのだろうが(実際、嬉しそうに話しかけている男性をよく見かける)、私にとっては結構な難点だった。

無言で美人と相対する時間というのは、なんとも気まずく、少し気恥ずかしいものでしかなかったからである。

この日も、いよいよ離陸直前となり、目の前の椅子にCAさんが、ちょこんと腰掛け、手際よくシートベルトを締めた。

さあ、この緊張感に溢れた僅かばかりの時間をやり過ごしさえすれば、足を前方に伸ばしに伸ばし、ゆったりと過ごすことができる。しかも、明日は休日だ。

もう私を、緊張と疲労の日々に縛り付けるものは、そう多くはないのだ。

あとは、飛行機が除雪された滑走路に走り出すのを待つばかり。

ところが、しかし、なかなか飛行機が走り出す気配がないのだ。

いつもよりも妙に長いこの時間。

この時、初めて目の前のCAさんと目を合わせてしまったのだが、彼女もやや気まずそうな表情を、橋本マナミからグラマーさを少しマイナスしたようなルックスの整った顔に浮かべていた。

いつも以上に、気まずい時間になってきてしまったではないか。

なかなか離陸できない原因は、空港に向かう頃から降り始めた雪だった。

「現在、新千歳空港上空に雪雲があり、視界不良のため、しばらく離陸を見合わせます」

機長がそのような放送を、日本語と英語で入れた。

快速エアポートの車窓から景色を眺めていた時から、それなりの勢いで雪が降り続けていたが、その勢いはさらに増してきているようだった。冬の夜の闇の中、空港の灯りに照らされて、無数の白いものが落ちてくるのが、浮かび上がっている。

さらに気まずい空気が漂ってきたが、目の前のCAさんは、するするとしなやかな動きでシートベルトを外すと、「失礼します」と小声で言いながら小さくお辞儀をしてから、席から立ち上がった。

これで、とりあえずは「緊張タイム」からは、解放されることになったのだ。

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しかし、ここからの時間がまた長かった。

待てど暮らせど、飛行機が走り出す気配はなく、何度も機長が放送で状況を説明した。

そのうち、機内では、まだ離陸前なのに飲み物が配られるという、なかなかレアな状況となってきてしまった。

「ようやく離陸の目途が立ちましたが、まずは凍結防止剤を翼に散布する離陸準備にかかります」

というようなことを機長が言うと、一時間ぶりに、ようやく離陸体勢をとることになった。

また目の前にCAさんが座り、今度こそ飛び立てるぞという雰囲気が高まる。

しかし、またもや飛行機が動き出すことはなく、機長から「やはり雪がひどいので、一度降機していただくことになります」と放送があった。

これによって、乗客は全員搭乗ゲートの外に逆戻りすることになった。

荷物や土産物の袋を抱えた人々の列に連なって、機内から空港に歩いていく。

航空会社のみなさんは、とにかく平謝りだ。

さて今度は、搭乗ゲートの前の椅子に座って待つことになった。

「食べますか~」

と、隣に座っていたスノボ帰りのような大学生風のカップルが、土産物を開けて配り出したのを皮切りに、あちこちで乗客達は土産物を食べだし始めた。

もうすでに売店のお弁当などは既にほとんど売り切れているので、お腹が空いた人々は自分用に買ったお土産を食べ始めたのだ。

回りの人々と北海道限定のお菓子を分け合いながら、一期一会の楽しい時間を過ごしたものの、一時間もすると結局今日のフライトは断念するとの発表があった。

周囲からは「エーッ」や「マジかよ!」という少し怒りがこもった落胆の声が聞こえてきたが、こんな時間まで待たされたということは、かなりギリギリまで粘ってくれたということに違いないので、まあ仕方ないのだろう。

今度は、搭乗ゲートから到着ゲートに抜けるという何とも珍しい移動をしてから、航空会社のチェックインカウンターまで歩いていった。

ここからがまた一苦労で、振り替えをしてもらうために、長い長い列に並ばなくてはならない。

結局、翌日の午前中の便に乗ることになり、やっとこの一連のトラブルから解放された。

さて、これから明日までどうしたものかと、疲れた頭で考えるのもめんどうな気分だったが、幸いまだ電車がある時間だったので、とりあえず札幌に向かうことにした。

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こんな時間だからか、電車は空いていた。乗客の半分は、飛べなかったお仲間なのではないだろうか。

電車が走り出し、地上に出た頃、窓の外を眺めるついでに、ふと少し離れた座席に目をやると、どこかで見たことのある顔があった。

こんな所で出会うとは。

奇跡というほどでもないが、それなりに珍しいことだ。

私は、席を立って、揺れる車内を歩いて、その人物に近づいていった。

1メートルほどの距離まで近づくと、その人物も私を認めて、ひどく驚いた顔をして声をあげた。

「あれ!こんな所で!今日はどうしたんですか?」

「ちょっと出張でね。帰ろうとしたんだけど、飛行機が飛ばなくて」

そう言いながら、彼のスーツの肩を、私はトントンと叩いた。

「ああ、さっきの便ですか。それは申し訳ない」

そう言って、それほど申し訳なさそうもない笑顔を浮かべる彼は、学生時代の一つ後輩の男だった。

彼は、飛行機の副操縦士という珍しい職業についていたので、そう簡単に忘れられる人物ではなかった。

「あれ、もしかして、さっきのに乗ってたの?」

私が、そう聞くと、彼は頭を掻きながら答えた。

「そうなんですよ。色々スケジュールが変わっちゃって、こっちもそれなりに大変です」

彼も一度札幌に戻って一泊してから、明日飛ぶということらしい。

「いつか乗ってる飛行機に偶然乗るんじゃないかと思ってたけど、こんな時だなんて。せっかくだけど、ちょっと一杯ってわけにもいかないね。最近、お酒にはうるさそうだもんな」

「そうなんですよ。なかなか呑めなくなってきましたよ」

「結構、お酒好きだったから、大変だなぁ。気をつけなよ。イギリスで逮捕されて禁固刑になるぞ」

「国際線じゃないですから、大丈夫です」

そんな冗談を言い合っているうちに、彼の向かい側の席に座っている連れの女性に目が移った。首を回して彼女と顔を合わせた、その瞬間、お互いに「あっ」と小さな声を出した。

そして、彼女は少し気まずそうに微笑んだ。

つい数時間前にも見たことのある、整った顔だった。

私も、少し気まずそうに微笑み返した。

「あれ、知り合いなんですか?」

そんな私たちの表情を見て、彼がたまらず質問してきた。

「いや、さっき飛行機の中で会っただけだよ。ただ、非常口の所の席だから、長いこと顔を合わせてて」

私は、手短に説明した。

「ちょっと長かったから、気まずかったですよね」

彼女はそう言って微笑む。

「そりゃあ、だいぶ長いこと顔合わせてたでしょう。なかなか飛ばなかったから」

彼は、そう言って笑った。

それから私は荷物を持ってきて、彼の横に座って話をすることにした。

基本的には、私と彼がバカな昔話をひたすらして、向かいに座る彼女は黙って聞いていて、おかしなことがあると一緒に笑うという構図だった。

せっかくだからと、三人で遅い夕食をとりにいっても、その構図はあまり変わらなかった。

「今日は静かだなぁ。飲むと、この人めちゃくちゃ面白いんだけど」

彼は、そう言って彼女はからかった。

「そんなことないですよ~、ちょっと陽気になるだけです」

と彼女は笑って否定する。

「どうなるのか、見てみたい気もするけど、ちょっと飲むなんてことも、これからは難しくなるね」

そんな話をしながら、その場はお開きに。

またどこかで偶然会うことを約束して、私は急遽予約したホテルにタクシーで向かった。

もう出張の期間が二倍になったかのように、濃く疲れた時間を送っていたので、あっという間に眠りについた。

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翌日は、再び空港に向かい、前日に食べてなくなってしまった、お土産を再び手にして、昨日の真っ暗闇の雪空とは正反対の青空に向かって、飛び立っていった。

長かった。

白銀に輝く大地を見下ろしながら、この半日を私はふり返っていた。

でも、なんだかんだ言って、貴重な体験が出来て面白かった。

さっきも、昨日一緒に待った人達と再会して、手を振りあったりして、共にトラブルに巻き込まれた同士、不思議な一体感を感じたりもした。

さすがに振り替えでは、人気の非常口の横の席はとれずに、足元が窮屈だったが、 私は疲れていたからか、ほとんどの時間を眠って過ごしながら東京に向かった。

そしてそのまま、すでにその半分を失いつつある、短い休日へと私は突入した。

家には直接帰らず、空港から電車に揺られ、とある趣味の店へ。

予約していた商品が届いているというので、受け取りに行くついでに、店員と話し込み、さらに予定外のものまで買い込む頃には、もう辺りはとっくに暗くなっていた。

予定より18時間遅れほどで家に着きそうだと思いながら、再び電車に揺られていると、私はまた昨日の夜のように「あっ」と小さく声をあげた。

すぐ横に立っていた私の視線の先の人物も、昨日と同じように「あっ」と小さく声をあげた。

しかし、そこには、昨日のような気まずさは生まれなかった。少しの時間でも、共通の友人を介して、共に過ごしたという安心感があった。

「あれ!またお会いしましたね!」

彼女は、驚きと興奮が混じった声をあげる。

「すごい偶然ですね。もう仕事終わりなんですか?」

私も興奮気味に話す。

「そうです。しかも、明日はお休みなんです」

彼女は、嬉しそうに笑った。

さて、ここで私は頭の中で超高速で悩んだ。

明日は休みなのか。

私に、わざわざ明日は休みだと言うのは、何かの意図があるのだろうか。

例えば、何かに誘っても良いというような。

いやいや、そんなことはなく、話の流れで自然に言っただけかもしれない。

いやいや、もしそうだとしても、軽く聞いてみても損はないのではないか。

「そうなんですか~。こんな偶然はめったにないし、せっかくなんで、ちょっと陽気になってみたりしません?昨日はなれなかったですし」

高速で悩んだ結果、私はそんな軟派な質問をするという答えを出していた。

「え~、よろしいんですか。じゃあ、ちょっとだけ良いですか?ちょっと飲みたい気分だったんです」

彼女の答えは、期待しうる中で最高のものだった。

「いいんですか?どんな所が良いんですか?」

年甲斐もなくドキドキしてしまいながら、私は会話を続けた。

「どこでも良いですよ!」

「やっぱりバーみたいな所が良いんですかね?」

「いやいや、そんな所、普段はあんまり行かないですよ。居酒屋とかで大丈夫です」

彼女は大きく手を振って遠慮気味に言う。

「良かった。実は僕もあんまりそういう場所に詳しくないんで。次の次の駅に、たまに行く中華料理屋があるんですけど」

「あ~、そういう所で飲むの大好きです。ていうか私、家が次の次の駅なんですけど、そのお店どこですか?」

「あの東口出て、ちょっといったセブンイレブンの近くの」

「あー、あそこですか!前からちょっと行ってみたかったんです。でも、一人で入る勇気がなくて」

「一人でも大丈夫だし、美味しいですよ。たまに言葉が通じないくらいで」

あっという間に、昨日の総会話量を上回るほど会話が弾み、トントンと事が進み、二人で中華料理屋に行くことになってしまった。

この親密さが加速して増していく感覚は、久しぶりに味わうものだった。

何かフィーリングが合うものがある、と少なくとも私はそう思っている。彼女もそうだと嬉しいのだが。

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駅から寒風に吹かれながら店に向かい、中華料理屋の戸をガラガラと引くと、いつもの店員のおばちゃんが顔を出した。

「二人?こっち、どうぞ」

見事に助詞を飛ばした日本語で、おばちゃんは席に案内してくれる。

「ビール?」

席にお尻が着くより早く、おばちゃんはそう聞いてくる。

「僕はビールで。何飲む?」

「私もビールで」

お尻が着いた瞬間には、もう飲み物のオーダーが終わっていた。

「何かおすすめは?」

「羽根つき餃子は、めちゃくちゃ美味しいですよ。まあ、なんでも美味しいですけど、こういうお店にしては値段設定が高めですね」

そんなことを話しているうちに、ビールのジョッキを抱えたおばちゃんが現れた。

「それじゃあ」

「今日もお疲れ様でーす」

適当に料理を数品頼んでから、乾杯をして飲み始める。

彼女は、勢いよくビールを飲んでから、まとめていた髪をほどいた。

その髪はやや乱れていて、すっかりラフな雰囲気になったのに、その美しさは少しも失われていない。

会話は弾んだ。

昨日、ほとんど話さなかったのが嘘のように。

一時間も経つと、気付けば、お互いの身の上話をべらべらと包み隠さず話すようになっていた。

彼女は、コンパニオンのバイトをしていた時に知り合った人物に、大学の学費の大半を負担してもらったことがあるらしい。

まあ、簡単に言うと愛人のような関係か。橋本マナミに少し似ていて愛人とは、なかなかよく出来た話だ。

「え~、それで今も一緒に住んでるんですか?」

私は、ちょっと突っ込んだ質問をした。

「もう一緒に住んでませんよ~。でも毎月少しずつ、お金を返してるんです。返さなくても良いって言うんですけど、返さないとこっちがなんだか気分悪くて」

「なんだか不自由で、すっきりしない話だね。まあ、僕もちょっと不自由なんだけど」

彼女の窮屈そうな人生を考えて、私はそう言った。

「え~何があるんですか?教えてくださいよ~」

酔いが回ってきたのか、少しずつ彼女は大胆になってきていた。

「ちょっと簡単には言えないな~」

私は、意味もなく焦らしてみる。

「じゃあ、もっと飲めば話してくれますかね。紹興酒飲みませんか?」

彼女は、店の奥にずらりと並んだ紹興酒の空き瓶を指差して言った。

「話すかは別として、じゃあとりあえず紹興酒を飲もうか」

私は、そう言いながら、おばちゃんを手を振って呼んで、紹興酒のボトルを頼んだ。

すぐにテーブルの上にトンと置かれた紹興酒を、お互いにコップに注ぎ合いながら、飲み干していった。

一瞬、明日の仕事のことが頭をよぎったのだが、まあ朝から必ず出社しなくてはならない状況でもなかった。

家に昔のように帰りを待っている人がいるわけでもないのだし、彼女も明日は休みなのだし、何もこの酒を妨げるものはないのだ。

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気付けば、やや会話が支離滅裂になりながらも、二人で紹興酒の瓶を空にしてしまった。

そのうち二人とも黙って、眠ってしまいそうになることが多くなってきた。

そうこうするうちに、彼女はテーブルに伏せて、小さな寝息をたて始めた。

その深い呼吸に合わせて、彼女の身体は愛らしく上下している。

そろそろお開きか。

私は、おばちゃんを呼んで

会計を済ました。

「ありがとございますー」

お金を受けとると、おばちゃんは満面の笑みでお礼を言った。その裏表のない、素直さが心地よい。

私は、彼女の肩を軽く叩いた。

「あれ!すいません。すっかり寝ちゃった」

彼女はそう言うと、慌てて口元のヨダレを拭うような仕草をした。

「そろそろお開きかと思って」

「そうですね。こんな時間まですいません」

「大丈夫、歩ける?」

「大丈夫でーす」

そう言って店を出たものの、彼女はよろよろとフラついている。

「大丈夫?おんぶしようか?」

私は、本気でそんな提案をしながら、彼女の腕を掴んで軽く支えた。

「大丈夫、大丈夫。それよりお会計、いくらでしたか?私も払わないと」

彼女はそう言ってふらふらと歩き続けた。足元はふらついているが、頭は結構冷静らしい。

「え~、いいよ今日は」

「そんなそんな、払わないと気分悪いです」

「じゃあ、今度またどこかで会ったら、その時は奢ってください」

「え~、すいません。じゃあそういうことにしましょうか」

こんな約束をして、奢ってもらう機会が無かったことが、今まで何度あっただろうか。

今回だけは、そうならないで欲しいと、私は思い始めていた。

「あれ、ところで何処に向かって歩いてるんだっけ?」

私は、目的地もなく歩き続けていることに、ようやく気づいた。

「あれ、すいません。無意識に、家の方に向かってました」

彼女は、てへへと笑う。

「家はこっちなんだ。うちもこっちから帰れなくもないな」

「そうなんですか?普段からすれ違ってたかもしれませんね!」

意外に生活圏が近いことが判明した。

「ちょっとだけ遠回りなんだけど」

「じゃあとりあえず、もうちょっと進んでみますか」

彼女は私を見上げて微笑む。

「そうだね。行ける所まで送っていくよ」

「お願いしまーす」

彼女はそう言うと、ぎゅっと腕を組んで、私の身体を引き寄せた。

二人の目的地の方向が、そんなにズレてはいないことが分かると、腕を組んでふらふらと歩みを進めた。

道端の小さなバーからは、Fairground AttractionのPerfectが漏れ聞こえてくる。

酔って熱く火照った身体で歩みを進める度に、運命が大きく動きだした気がしていた。

奇跡はもう起きていたのかもしれない。あの飛行機の非常口の横の座席に座った時から。

そんなことを思いながら、だんだんと二人は言葉数が少なくとなっていきつつ、ふらふらと歩いていった。

外気に触れる顔は冷たく、寄せ合う身体は温かい。

バーからは距離が離れ、今やPerfectのベースラインだけが聞こえていた。

街灯に照らされてアスファルトに出来た二人の影は、長く延びて、ぴったりと寄り添っている。

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